アメリカ人は外国語をどうやって学んでる?アメリカ人英語講師にスペイン語を習得した方法を聞いてみました。(後半)
前回の記事では、アメリカ人英語講師Jasonがどのように彼にとっての第2言語であるスペイン語を習得してきたのか、その経験についてお届けしました。
Jasonがスペイン語を大きく伸ばしたきっかけは、チリでの1年間の生活でした。
英語に逃げられない環境の中で、毎日スペイン語を聞き、話し、間違えながら使い続けたこと。そして約9ヶ月後、英語で考えてスペイン語に訳すのではなく、スペイン語で考え、スペイン語で言葉が出てくる感覚を得たそうです。
今回はその続きとして、Jasonに「英語指導者」としての視点から、語学習得に効果的な学習法、日本人学習者に多い課題、子どもの英語教育、そして今後の英語学習におけるAIの活用法についてインタビューしたことをお伝えしていきます。

最も効果的な学習法はアウトプット
Jasonはこれまで7年以上、3000人を超える世界中の英語学習者のサポートをされてきました。そしてご自身も第2言語をネイティブレベルに習得されている。
そこで、
「最も効果的な語学学習法は何ですか?」
と質問してみました。
最初に出てきた答えは、「アウトプット」でした。
彼は、特に「話せるようになりたい」のであれば、単語や文法を覚えることだけに時間を使うのではなく、実際に言葉を使って表現することが重要だと話していました。
もちろん、初心者がいきなり何も知らない状態で話せるわけではありません。
Jasonも、初心者はまず基本的な単語、よく使う動詞、基本的な時制、基本的な文の構造を学ぶ必要があると言っていました。
でも、大切なのはその先。
基礎を学んだ後は、その知識を使わなければいけない。
知っている単語を使って文を作る。
覚えた文法を使って自分のことを話す。
聞いた表現を自分の文に入れてみる。
この「使う」段階に入らなければ、英語はいつまでも知識のままで終わってしまいます。
日本人は知識を過小評価している!?
今回とても印象的だったのは、Jasonが日本人の中級者について話してくれたことです。
彼は、多くのB1〜B2レベルの日本人学習者は、自分がすでに持っている文法知識を過小評価していると言っていました。
つまり、
「まだ文法が足りない」
「まだ単語が足りない」
「もっと勉強しないと話せない」
と思っているけれど、実際には他の国の英語学習者の方たちよりも、はるかに多くの文法の知識を持っている。その今ある知識でかなり多くのことを表現できると感じるのだそう。
これは私も強く共感しました。
日本人の英語学習者は、本当にたくさん勉強している。
でも、いざ話すとなると、
「まだ足りない」
と思ってしまう。
大切なのは、さらに難しい文法を学ぶことではなく、今ある知識を使って自分の考えを伝える練習をすることだと。
文法は全部学ぼうとしなくていい
私がJasonに聞きたかったことの一つが、文法についてでした。
英語の文法は範囲が広く、全てを完璧に学ぼうとすると終わりがありません。
だからこそ私は、
「全ての文法ルールを覚えるよりも、英語文法の全体像や、品詞、文の構造を理解することが大切なのではないか」
と質問しました。
Jasonもこの考えに強く同意してくれました。
彼は、特に日本人学習者にとって大切なのは、
・時制
・文の構造
・be動詞の使い方
・前置詞
だと話してくれました。
特に時制については、現在完了や過去完了など、日本人にとって難しいものが多い。ただし、英語にある12の時制、全てを完璧に使いこなす必要はないとも話していました。
もちろん、高度な英語を話すには多くの時制を使えた方がいい。
でも、非ネイティブとしてしっかり話すなら、まずはよく使う6〜7個をしっかり使えるようにすることが大切だと言っていました。
また、前置詞についても英語学習者にとって非常に難しい部分だと話していました。
彼の上級者の生徒でも、前置詞の間違いをする人は多い。
in, on, at, for, to, with など、前置詞はシンプルに見えますが、実際にはとても奥が深い。
だからこそ、全てを一気に完璧にしようとするのではなく、自分がよく使う基本的な前置詞から確実に使えるようにすることが大切だと感じました。
自分の目的に合った英語を学ぶ
Jasonが何度も話していたのは、
「自分が何を伝えたいのか」
「どんな場面で英語を使いたいのか」
を理解することの大切さでした。
英語は全員が同じように学ぶ必要はありません。というか学べないのです。
ビジネスで使いたい人。
海外旅行で使いたい人。
プレゼンで使いたい人。
海外での生活で使いたい人。
それぞれ必要な英語は違います。
だから、自分のゴールを理解し、その場面で必要な語彙や表現、文法を学んでいくことが大切。先ほど触れた文法に関しても、ルールを完璧に理解することよりも、自分が使う場面で必要なものをまず使えるようにしていくこと。これが必要なのです。
独学で言語習得は可能なのか?
Jasonはスペイン語をほぼ独学で学んできました。
YouTubeを見たり、基本的な文法や語彙を学んだり、実際にネイティブと話したりしながら、かなり高いレベルまで到達しています。
でももしJasonは今からもう一度言語を学ぶなら、専門家の先生に投資すると決めているそう。なぜなら、独学では自分の弱点に気づきにくいからです。
Jasonの奥様はコロンビアの方ですが、彼がスペイン語で間違えても、意味が通じれば基本的に直さないそうです。これは多くのネイティブスピーカーにも言えることですよね。
相手が理解できれば、細かい間違いは流される。
でもそれは、間違いがないという意味ではない。
発音、文法、より自然な言い方、より高度な表現。こうした部分を磨くには、やはり適切なフィードバックが必要なのです。
Jasonは、もしスペイン語の先生から数年間フィードバックを受けていたら、今頃C2レベルにかなり近づいていたと思うと話していました。
これは英語学習でも同じです。
ある程度までは独学で伸ばせる。
でも、自分の癖や弱点、伸び悩みの原因は、自分では見えにくい。
だからこそ、客観的に見てくれる先生やコーチの存在は大きいのだと思います。
一番非効率な学習法とは?
Jasonに、
「非効率だったと思う学習法はありますか?」
と聞くと、彼はこのように答えてくれました。
「方法そのものが悪いというより、その後に使わないことが問題だ」
動画を見る、単語を覚える、文法を学ぶ、穴埋め問題を解くなどの学習法は決して悪くない。でも、それを実際の会話で使わなければ、本当の意味では身につかない。
Jasonは、
「使わない知識は、語学学習では役に立たない」
と言います。
例えば前置詞の穴埋め問題なら、時間をかけて考えれば正解できるかもしれません。でも、会話の中で瞬時に使えるかどうかは別問題です。実際に話す時に使えなければ、まだ「使える知識」にはなっていない。
だからこそ、
学んだら使う
↓
文を作る
↓
話す
↓
フィードバックをもらう
この流れが大切なのです。
日本人学習者に多い課題は完璧主義
Jasonは、日本人学習者について、完璧主義の傾向があると話していました。
これは文化的な背景もあるかもしれません。
間違えたら恥ずかしい。
正しく言わなきゃ・・・
そう思うあまり、話す前に止まってしまう。
でもJasonは、語学学習はそういうものではないと言います。
最初から完璧に発音することはできない。
最初から完璧な文を作ることもできない。
だから、間違える必要がある。
間違えるから、正しい言い方が分かるし、練習して磨くことができる。
Jasonは、
「間違いは悪いものではなく、学習に必要なもの」
だと何度も話していました。
ちなみにJasonはスペイン語を磨く過程で「敢えて」間違えることをしてきたのだそう。
「この単語や表現ってこの場面で使ってもいいのかな?」と思った時は
敢えて使って相手の反応を見てみる。
間違うことは学習の過程・ステップなのです。
そして、成功する人と途中で諦める人の違いは、間違いをしながらも続けられるかどうかだとも言っていました。
これは英語学習だけでなく、仕事、そして人生にも通じる話だと思います。
完璧にできるようになってから始めるんじゃなく、始めるから、少しずつ上手くなる。間違えるから、改善できる。この順番を受け入れられるかどうかが、語学習得において非常に大切なのです。
ちなみにJasonがこのような言葉を教えてくれました。
”You have to crawl before you walk, walk before you run.”
という表現です。
直訳すると、
歩く前には、まずハイハイしなければならない
という意味です。
つまり、何かを上達させるには段階があるということ。
赤ちゃんがいきなり走れないように、語学学習者もいきなり流暢には話せません。
最初はハイハイの段階です。
間違える。
発音がうまくできない。
文が短い。
言いたいことが出てこない。
でも、その段階を通るから、次に歩けるようになる。
そして、歩けるようになってから、ようやく走れるようになる。
Jasonは、語学学習もまさにこのプロセスだと話していました。
私はこの話を聞いて、日本人学習者は「まだ赤ちゃんの段階なのに、いきなり走ろうとしている」のかもしれないと感じました。
基礎の段階で間違えることを許せず、最初からきれいに話そうとする。
でも、それでは前に進みにくい。
まずはハイハイ、つまり短い文でいいし間違えてもいい。そこから歩き、やがて走れるようになる。
このプロセスを受け入れることが、英語学習ではとても大切なのです。
子どもの英語教育で大切なのは「第二言語を普通にすること」
次に、子どもの英語教育についても聞きました。
Jasonは子どもに英語を教えた経験があり、また自身もコロンビアで子育てをしています。
彼が子どもの語学教育で大切だと話していたのは、
第二言語を家庭の中で普通のものにすることでした。
英語を特別なもの、勉強の時間だけに使うもの、親の前では使わないものにするのではなく、家庭の中で自然に存在するものにする。これをnormalizeという言葉を使っていました。
子どもは、親が普段使っている言語を「普通」と感じる。だから、家では日本語だけ。親とは日本語だけ。英語は学校や先生とだけ使うという状態だと、子どもにとって英語は日常ではなく、不自然なものになりやすい。
Jasonの息子さんも、コロンビア人に対して英語で話すことに違和感を持つことがあるそうです。なぜなら、コロンビア人はスペイン語を話す人だと思っているからです。
でもJasonは、言語は人種や国籍に縛られるものではなく誰とでも、その言語を共有できるなら使っていい。これを子どもに伝え、第二言語を使うことへの抵抗が減らしているとのことでした。
親の姿勢は子どもの言語学習に影響する
Jasonは、親の英語力や親の姿勢は、子どもの語学学習に大きく影響すると話していました。
親自身が英語に興味を持ち使おうとしていると子どもも英語を前向きに捉えやすくなる。
逆に、親が英語を全く使わず、英語に関心を示さない場合、子どもにとって英語は「家庭の外だけのもの」になりやすい。
Jason自身も、息子さんに対して時々スペイン語から英語に切り替えて話しかけるそうです。
最初、息子さんは英語から逃げるためスペイン語で返そうとするのだそう。それでもJasonは英語で話し続ける。すると、しばらくすると息子さんも英語で返し始めるそうです。
そして一度スイッチが入ると、その後は楽しそうに英語で文を作り始めることもあると言っていました。
ここでも大切なのは、「必要性」と「楽しさ」です。
英語を使う必要がある状況を作る。でも同時に、子どもにとって楽しいものにする。子どもの英語教育でも、この2つが大切なのだと感じました。
トリリンガルが考えるAI時代の英語学習法とは?
さらに、気になる方も多い、英語習得におけるAIの活用についても聞いてみました。
Jasonは、ChatGPTのようなAIは英語学習にとても役立つと話していました。
文法を学ぶ。
語彙を増やす。
ライティングを改善する。
リーディングの練習をする。
会話練習をする。
学習計画を作る。
こうしたことにAIはかなり使える。
Jason自身は、レッスンプラン作りにAIを活用しているそうです。
以前なら何日もかかっていた教材作成が、今では数分でできる。
生徒の目標に合わせて、必要な文法、語彙、質問、練習内容を作ることができる。
これは英語講師にとっても非常に大きな変化です。
私自身も、AIによって英語学習や英語指導の形は大きく変わっていくと感じています。
ただし、JasonはAIだけで十分だとは言っていませんでした。
AIでは代替できないもの
JasonがAIについて話す中で特に印象的だったのは、
AIでは人間の微妙なニュアンスや非言語コミュニケーションまでは完全に再現できない
という点です。
言語は、単語や文法だけで成り立っているわけではありません。
表情。
目線。
姿勢。
間。
声のトーン。
距離感。
ジェスチャー。
文化的な背景。
こうしたものが、実際のコミュニケーションには大きく関わっています。
Jasonは、コミュニケーションの多くは非言語で成り立っていると話していました。
私たちが相手と話す時、言葉以外の要素から多くの情報を受け取っているのは確かです。
日本人は比較的、姿勢や落ち着き、控えめな態度を大切にする傾向があります。一方、アメリカでは手振りや表情、声の抑揚が大きく出ることもあります。イタリア人ならさらに手を使って表現するかもしれません。
こうした「言葉以外のコミュニケーション」は、実際に人と話す中でしか学びにくいものです。
AIはとても便利ですよね。でも、人間とのコミュニケーションの代わりにはならない。
英語の知識は教えてくれる。でも実際の場面での使い方を教えてくれるのは人。私はそう思っています。
AIは「自分に合った教材作り」に使う
では、AIをどう使うのが効果的なのか。
Jasonは、AIを使って自分の目的に合った学習プランや教材を作ることを勧めていました。
例えば、
自分はビジネス英語を学びたい。
会議で発言できるようになりたい。
プレゼンで質疑応答ができるようになりたい。
海外の同僚と雑談できるようになりたい。
こうした目標をAIに伝えれば、それに合った単語リスト、表現、練習問題、会話例を作ってもらえます。
ただし、ここでも重要なのは、
AIで作った教材を実際に使うこと
AIに作ってもらって満足するのではなく、それを口に出す。自分の状況に当てはめて文を作って先生や相手との会話で使う。そしてフィードバックを受ける。
AIは学習を助ける道具であり、実際のアウトプットと組み合わせてこそ力を発揮するのだと思います。
言語を学ぶとは、文化への扉を開くこと
最後に、Jasonにある質問を投げかけてみました。
「Jasonにとって、言語を学ぶとは何ですか?」
Jasonは、言語学習をパズルのようなものだと表現しました。
単語、文法、文の構造。それぞれのピースを少しずつ組み合わせていく。そしてパズルが完成すると、全体像が見えてくる。
さらに彼は、言語は文化への窓であり、入り口だとも話していました。
文化を深く理解したいなら、その言語を学ぶ必要がある。なぜなら、言語そのものが文化だからです。
また、Jasonは、言語を「秘密」のようなものだとも表現していました。
ある考えや感情を、日本語ではこう表現する。英語ではこう表現する。スペイン語ではこう表現する。その言語ならではの表現の仕方を知ることで、その文化の中に入っていける。
そして、今まで繋がれなかった人たちと繋がれるようになる。
これが言語学習の美しさだと話していました。
英語はスキルであり、文化と繋がる手段でもある
私はJasonの話を聞きながら、日本人にとっての英語学習は「スキル習得」として捉えられやすいと感じました。
英語を話せるようになりたい。
仕事で使えるようになりたい。
資格を取りたい。
キャリアに活かしたい。
もちろんそれは大切です。
特にビジネス英語では、英語は仕事の道具です。
でもJasonの話を聞いていると、言語はそれだけではないと感じます。
英語を使うということは、英語圏の人たちの考え方や文化に触れることでもあります。
海外の人と仕事をするということは、ただ英語の単語を使うことではない。相手の文化、価値観、ビジネスの進め方、コミュニケーションスタイルを理解することでもある。
だからこそ、言語を学ぶ上で文化理解は欠かせない。そして英語を学ぶことは、単に英語力を上げることではなく、世界の見え方を広げることでもある。
今回Jasonの話を聞いて、改めてそう感じました。
まとめ
今回のインタビューでは、Jasonに英語指導者としての視点から、語学習得のメソッド、子どもの英語教育、AIの活用について聞きました。
私がJasonの話を聞いて思ったこと。それは
英語習得に対する自分の定義・考え方・スタンスが大きくスキルを変える。
英語が流暢、とはどういう状態なのか?
ネイティブの方が使うような表現を使って意思疎通できることなのか?
間違いなく英語を使えることなのか?
相手の文化や考え方を理解した上で最適な言葉を選べることなのか。
言語を習得するとはどういう状態になることなのか?
たくさんの単語・文法を正しく知っていることなのか。
海外の方と繋がり深く理解できることなのか。
まずはあなたの中で、英語習得に対する定義をしてみてください。
英語はコミュニケーションのツール。それぞれ使う目的、使う場所は違う。
あなたにとって必要な学び方に出会えるはずです。
今回のJasonの話があなたの今後の英語習得のご参考になれば、何か見方を変えるきっかけになれば嬉しいです。
すでに登録済みの方は こちら