アメリカ人は外国語をどうやって学ぶの?アメリカ人英語講師にスペイン語を習得した方法を聞いてみました。(前半)
アメリカに家族で移住してもうすぐ2年。
2年前、移住してすぐ、娘たちの学校で出会ったあるアメリカ人の方から聞かれたある質問が今でも記憶に深く残っています。
それは
“How many languages can you speak?”
そうか、日本では「英語話せるの?」だけど、
こっちでは「何ヶ国語話せるのか?」って質問になるのか、と外国語習得に対する概念の違いを痛感しました。
何ヶ国語も話せて当たり前。そんな文化に身を置く中で私が気になっていたことがありました。
それは、
アメリカ人はどうやって第二外国語を習得するのか?
なぜ海外の方は日本人よりも複数の言語を習得している人が多いのか。もちろん他民族が住んでいることで学校で第二外国語を学ぶタイミングが早いこと、また日本とは地理的な違いもあるかもしれない。でも根本的な学び方に何か差があるのではないだろうか?と疑問に思っていました。
そこで今回、アメリカ人のビジネス英語講師であり、現在スペイン語圏で生活をしているJasonに、彼自身がどのようにスペイン語を習得してきたのかをインタビューしました。
Jasonはアメリカ出身の英語講師ですが、現在は南米コロンビアに住み、日常生活のほとんどをスペイン語で送っています。奥様もコロンビアの方で、家庭での会話もスペイン語。
英語を教える立場でありながら、同時に第二言語であるスペイン語を学び続ける学習者でもあるJason。クラスを受けるなどは一切せず上級レベルまでスペイン語を伸ばした学習法を今回記事にまとめました。
今回の前半編では
・スペイン語を学び始めて最初に取り組んだ学習法
・言語を習得する中で一番辛かった時期は?
・大きく伸びを感じた瞬間に感じたこと
・リスニング、スピーキング、リーディング、ライティング、どれを最初に取り組んだ?
・モチベーションをどう維持していったのか
・言語習得で一番大切な要素は何?
についてJasonとの対談から学んだことをまとめました。

Jasonがスペイン語を学び始めたきっかけ
Jasonがスペイン語に最初に触れたのは高校時代。
学校で基礎を学んだものの、その時点では実際に使う機会はほとんどなく、本格的に話せるようになったわけではなかったそうです。
その後、彼がスペイン語に強く惹かれるようになったのは、アメリカ国内でラテンアメリカ出身の人たちと関わる機会が増えたことがきっかけでした。
アメリカ、特にカリフォルニアやワシントンD.C.周辺には、中南米にルーツを持つ人たちが多く暮らしています。
Jason自身も、レストランで働いていた時に中南米出身の人たちと一緒に働くようになり、そこでスペイン語を実際に使う機会が増えていったそうです。
さらに、ボリビア出身の女性と交際したことも大きなきっかけでした。
彼女は英語があまり話せなかったため、Jasonは彼女とコミュニケーションを取るためにDuolingoを使ったり、YouTubeを見たりしながらスペイン語を学び始めます。
つまり、Jasonにとってスペイン語は、最初から試験のための科目ではなく、コミュニケーションを取るためのツールだったのです。
最初に掲げた目標は?どんな学び方をしていた?
Jasonに、
「スペイン語を学び始めた時の最初の目標は何でしたか?」
という質問を投げかけると、こんな答えが返ってきました。
「最初の目標は、コミュニケーションが取れること。相手の言っていることを正確に聞き取り、自分の考えをはっきり伝えること」
そして、最初から文法や発音を完璧にしようとはしていなかったそうです。
もちろん文法や発音が大切ではない、という意味ではないです。
文法や発音は使いながら習得していけばいい。
それよりも先に、
「自分で新しい文を作ってみる」⇨「相手の反応を見ること」⇨「伝わらなければ別の言い方を試すこと」
を重視していたそうです。
実際に自分が作った文をネイティブスピーカーに伝え、その相手の表情や反応を見て、「あ、これでいいんだ」「この表現は違うんだ」と見極めていたのです。
相手が自然に反応してくれたら伝わっている。逆に、聞き返されたり、表情が止まったりしたら、伝わっていない。その時は、別の言い方を試す。
この繰り返しだったと言います。
この話を聞いて、私は日本人の英語学習との大きな違いを感じました。
私たちはどうしても、
「正しい文法で言えるようになってから話す」
「発音をきれいにしてから話す」
「単語をもっと覚えてから話す」
と考えがちです。
根本に、間違えることはネガティブなことという考えが潜んでいるように思います。
でもJasonの学び方は全く逆。
「敢えて間違える」
その過程で、文法も発音も語彙も少しずつ自然に身についていく。
彼は、
「文法・発音・語彙は、アウトプットの副産物として伸びていく」
という表現をしていました。これは、英語スキルに伸び悩む日本人にとってかなり大切な視点だと感じました。
もしかしたら私たちは英語を学ぶ過程において間違える回数が足りていないのかもしれません。
最初に重視したスキルとは?
Jasonにこんな質問を投げかけてみました。
「最初に重点を置いたのは、リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングのどれでしたか?」
Jasonが最初に取り組んだのはリスニングでした。
理由はとてもシンプルで、相手の言っていることが分からなければ、どう返せばいいか分からないから。
特に学び始めた初期は、話すよりも聞く時間の方が多かったそうです。
聞いて、文脈を理解し、表現を拾う。相手の反応や言い方を学びながら
そして少しずつ、自分でも返せるようになっていく。
英語学習においても同じことが言えます。
特に日本人の大人の英語学習者の場合、単語や文法を学んできた方は多いですが、実際の会話のスピードや自然な表現を聞き取る経験が圧倒的に不足していることがあります。
相手の話が聞き取れないと何も始まらない。
だからこそ、リスニングは単なる受け身の学習ではなく、スピーキングの土台でもあるのです。実際、私自身も自分の英語力を大きく伸ばしたタイミングが2回あったのですが、2回ともリスニングを重点的にトレーニングした時に起こった変化でした。
中級から上級レベルに伸ばすまで実践したこと
Jasonが一番スペイン語が伸びたのはチリに滞在した1年間。チリに住む前の自分のスペイン語レベルはA2、もしくは低めのB1くらいだったそうです。
英語のA2とB1は、ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)という、外国語の運用を同一の基準で測ることができる国際標準の中の、中級・自立した言語使用者のレベルに定義されています。具体的には「A2は初級・日常会話の基礎があり、旅行で困らないレベル」、B1は「中級・自立した言語使用者であり、自分の意見を伝えられるレベル」を指します。
つまり、初心者ではないけれど、充分に自分の言いたいことを言える状態ではなかったということですね。
では、この状態から上級レベルに伸ばすまで何をしたのか。
まず、アメリカ国内でスペイン語を話す人たちと積極的に話すこと。
レストランで一緒に働いていたラテンアメリカ出身の人たちと会話をすること。
など、少しでも機会があれば、自分からスペイン語を使うというかなり実践にフォーカスした学び方でした。そしてその後、実際にスペイン語圏に旅行に行き、住むという経験をされています。
Jasonはこの”full immersion”スタイルでスペイン語を習得したのです。
”full immersion”とは、学ぶ言語にどっぷりと浸かりきる環境や学習方法を指します。母国語を一切使わず、外国語のみで生活や学習を行うことで、自然な習得を目指す手法として広く知られています。
ちなみにJasonは文法や単語などいわゆる「お勉強」にももちろん取り組んでいました。主にはYouTubeでスペイン語の動画を見て基本的な文法を学び、語彙を覚えたりしていました。
片面にスペイン語、もう片面に英語を書いて単語を覚えるフラッシュカードも使っていたそうです。
ただ、私たちが考える文法や語彙学習とは違っていたところは、Jasonにとって語彙や文法の勉強は、あくまで実際に使うための準備だったということ。
覚えたら使う。聞いた表現を自分の文に入れて使う。新しい動詞を覚えたら、自分の言いたいことに当てはめてみる。つまり、インプットとアウトプットが常に繋がっている状態だったそう。
ちなみに、Jasonが使っていたフラッシュカード。実はアメリカに来てから、アメリカ人の方が学習にフラッシュカードを使う、使っていたと話をよく耳にしていて、娘の学校でも推奨されていたこともあり、なぜ皆こんなにフラッシュカードを使うのか気になっていました。
Jasonによると、アメリカでは子どもの頃からフラッシュカードを使って学ぶ機会が多く、先生からそのやり方を推奨されていたこともあり、慣れ親しんだ学習法だったのだそう。
実は私自身、自分が英語のスキルが伸びた時にやめたのが「単語帳を使うこと」
自分が出会った新しい単語をノートに書き込んで覚える。そんな自作単語帳を作ることが一番効果的だったのです。このカードに自分が出会った単語を書き込んでいき、何度も見直すという流れで学ぶのであればフラッシュカードは効果的なのかもしれません。
スピーキング力を伸ばした方法
Jasonがスピーキング力を伸ばすために実践したこと。それはネイティブが使っている表現を聞き、それを自分の文に入れていくこと
例えば、3語くらいの自然な表現を聞いたら、それをそのまま覚えるだけではなく、自分の言いたいことに組み込んでみる。
新しい動詞を聞いたら、自分の文で使ってみる。
ネイティブらしい言い回しを聞いたら、自分の会話の中で試してみる。
このようにして、Jasonは少しずつ自分のスペイン語を作っていきました。
ここで大切なのは、「覚える」で終わっていないこと。
多くの英語学習者は、単語帳やフレーズ集を見て、「知っている」状態になります。
でも、実際に会話では使えない。
なぜなら、その言葉が自分の口から出てくるようになる練習をしていないから。
Jasonは、
「読める、分かる、知っている、ではなく、実際に自分の口で言ったことがある。
自分の文として使ったことがある。相手に向かって伝えたことがある。その経験が、話す力を作っていく」
という考えを持っていました。
例えばビジネスの場面だと、
会議や商談、プレゼンで使える語彙やフレーズを知識として覚えるだけでは足りません。実際に自分の仕事、自分の意見、自分の状況に当てはめて、何度も口に出して使う必要があるということです。
「ネイティブの会話や本で学んだ語彙やフレーズを暗記するのではなく、それを自分の文章に組み込んでいく。そして使う練習をする、これがスピーキング力を伸ばす一番早い方法だ」
そうJasonは話してくれました。
スペイン語が上達した!と周りに言われた時に起こっていたある変化
Jasonのスペイン語が大きく伸びたのは、2019年から2020年にかけてチリのサンティアゴに1年間住んだ時でした。
周りに英語を話す友人はいない。日常生活はすべてスペイン語。家でも、外でも、友人との会話でも、すべてスペイン語を使う必要がある。つまり、逃げ場がないまさに”full immersion状態ですね。
Jasonはそれを「毎日14時間のスペイン語クラスを受けているようなものだった」と話していました。
Jasonが特に印象的に話してくれたのが、チリに住んで約9ヶ月経った頃に起きたブレイクスルーです。
ある日、チリ人のルームメイトから、「スペイン語、すごく流暢に話せるようになっているね」と言われたそうです。
その時、実はJason自身も大きな変化を感じていたのだそう。
それまでの彼は、英語で考えて、それをスペイン語に訳している状態だった。
でもその頃から、英語を介さずにスペイン語で考え、スペイン語で言葉が出てくるようになっていたのです。
「英語のマインドセットをオフにして、スペイン語のマインドセットをオンにする感覚だった」
Jasonはこう表現していました。
これは多くの英語学習者にとって、ひとつの大きな壁です。
私たち日本人も、英語を話す時に、まず日本語で考える。それを英語に訳すために単語を探し、文法があっているか確認する。その間に会話の流れが止まってしまう。
という状態に陥ると思います。
でもJasonが体験した「流暢さ」ってそこから抜け出した状態なんですよね。アイデアが直接言葉になる。頭の中で文法を組み立てるのではなく、言いたいことが自然にその言語で流れてくる。
これはすぐに起こるものではなく、膨大な量のアウトプットをこなした後に起こるものなのです。
間違いは「失敗」ではなく、学びに必要な「過程」の一つ
今回のインタビューの中で、一番印象的だったのが「間違い」に対するJasonの考え方でした。
とにかくスペイン語で誰かと話す。むしろ敢えて間違えて相手の反応を見て使えるか試してみる。というJasonの学び方を聞いて
「間違えることは怖くなかったのですが?」
と聞いてみました。
Jasonの答えは
「全く怖くない。今でも毎日間違えているよ。」でした。
「間違いは「失敗」ではなく、学びに必要な「過程」。一つ言語を学ぶ上で、間違いは避けるべきものではなく、必ず通る必要がある階段のようなもの。間違えることで初めて、正しい言い方が分かる。新しい文を作ってみなければ、それが自然かどうかも分からない。だから、間違いは悪いものではなく、むしろ必要なもの」
この考え方は、日本人の英語学習者にとってかなり大きなテーマですよね。
私たちは学校教育の中で、間違いを赤ペンで直される経験をたくさんしてきました。間違うことはダメ、避けるべきもの、評価を下げるもの。と無意識に感じられているところがあるもにもしれません。(私もそう)
でも、実際の会話では、間違えない人が伸びるのではありません。むしろ逆で、間違いながら使い続ける人が伸びる。
間違えた時の捉え方や行動で言語の上達度合いが変わるのです。
Jasonの話を聞いて、英語学習において必要なのは、間違えない準備ではなく、間違いから学ぶ姿勢なのだと改めて感じました。
英語がペラペラってどういう状態?
アメリカに来て、ふと思うことがあります。
「英語が上手・流暢ってどういう状態なのか」
「どういう状態になれば習得できた、と言えるのだろうか?」
アメリカに来て色々な国から来た色々な方の英語を聞き、これが正解、これが完璧だ。という状態はないということを日々実感するからです。
Jasonにとっての真の流暢さとは
どんな話題でも即興で話せること。
家族との何気ない話、スポーツや天気について、
政治や文化について、またビジネスオーナーとの会話、など
相手や場面に合わせて、語彙やトーンを変えながら、自分の考えを表現できること。
そしてJasonにとっての言語習得とは、
言語を通して文化と深く繋がれること。
「言語はコミュニケーションの手段。言語を通して相手の文化と深く繋がれることが喜び」
と語ってくれました。
英語が話せる、というのは、ただ短いフレーズを言えることではない。
発音が綺麗なこと、難しい単語を知っていることがレベルが高いのではない。
自分の考えを伝えられること。
相手の考えを理解できること。
その場に合った言葉を選べること。
そして、言葉を通して信頼関係を作れること。
ここがゴールであるべき。
Jasonにとっての言語習得はとても深いところにゴールがあった。発音や単語、フレーズなど表面的なスキルの部分に目が行きがちだけど、もっと大切な部分、フォーカスすべきはその先にあるということなのです。
Jasonが語学を続けられた理由
最後にJasonに、
「なぜスペイン語学習を続けられたのですか?」
という質問を投げかけてみました。
帰ってきた答えは
「コミュニケーションが好きだからだ」
でした。
「言語を学ぶことで、より深く人と繋がれる。文化を理解できる。表面的な会話だけではなく、相手の考えや価値観まで理解できる。だから、もっと学びたい」
と思うのだそう。
Jasonにとってスペイン語の習得は単なる語学スキルの習得ではなく、あくまで人と深く繋がり文化を理解するための手段でしかない。
これは私自身も強く共感する部分でした。
英語を学ぶことの先にあるのは、英語スキルが習得できたことよりも
英語を通して出会う人や仕事、そこから新たに見せる世界、そして変化する自分。そこに価値があり、だからこそ、大人になってからの英語学習には大きな意味があるのだと感じています。
語学習得に必要なのは「才能」ではなく「必要性」
今回のインタビューを通して一つ改めて思ったことがあります。
それは語学習得に必要なのは才能ではなく、必要性だということです。
Jasonがチリに住んでいた1年間ってスペイン語を使わなければ、生活ができない。使うしかないそんな環境だった。その必要性が、彼のスペイン語を大きく伸ばした。
英語って他の科目と違い、言語で日々使って鍛えていくもの。必要性がないと使わないし、使う動機も弱くなる。この状態で毎日使う練習をするのってかなり難しいからです。
「これからの時代、英語話せた方がいい」
という正論に私たちのモチベーションは打ち勝つことはできない。
目の前の自分にとって必要なことに対して優先順位を上げていくことは当たり前だからです。
この必要性をどうやって日常に作るのか?
海外に住まなければ作ることは難しいのか?
というとそんなことはない。
日本に住んでいても、自分で英語の必要性を作ることはできる。
いや、必要性というよりも、「自分の日常の中に当たり前にあるものにする」にするという表現が一番あっているかもしれません。
英語を使う必要が全くなかった私自身の経験をシェアすると、頭の中でめぐらせる自分の考えや独り言を英語にする、スマホの設定を英語表記にする、好きなことを「英語で」する。特に私の場合は歴史が好きで、京都の観光地に行くことが好きだった。海外の友人とそこに行くようになり、説明してほしいと言われ、英語で自分が好きな歴史のことを話すようになった。それが後の通訳案内士としてのお仕事にも繋がったのです。
日々の小さな積み重ねが、英語を「勉強するもの」から「使うもの」に変えていく。いかに「学ぶもの」から「使うもの」に変えるかで必要性も、またスキルの伸びも変わってくるのです。

10年前、通訳ガイドとして地元香川県の栗林公園でアメリカからの旅行客の方を案内
次回、後半の記事ではJasonが考える「日本人英語学習者がもっと取り組むといいこと」また「非効率な語学学習法」など、英語習得の方法について、またお子さんをバイリンガルに育てているJasonご自身の経験からも、子どもの言語習得についてアメリカの方がどのような考えを持っているのか、さらに深く聞いていきたいと思います。
もし、Jasonに聞いてみたいこと、またこんな話を取り上げてほしい!というご要望があればコメントで教えてください。またこの記事のご感想をいただけるととても嬉しいです。
ビジネス英語講師 Jason Dinndorf
インタビュアー 武智さやか
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